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岐阜地方裁判所 昭和43年(ヨ)246号 判決

申請人 福田悦子 外一名

被申請人 岐阜三星染整株式会社

主文

申請人らが被申請人会社の従業員たる地位にあることを仮に定める。

被申請人は、申請人福田悦子に対し一ケ月につき金三万〇、三一三円、申請人辻丸喜美子に対し一ケ月につき金二万四、九四一円を、それぞれ昭和四三年一月一九日以降毎月二五日限り仮に支払え。

申請費用は、被申請人の負担とする。

事実

申請人ら

被申請人

第一、当事者双方の求める裁判

主文と同旨。

申請人らの申請はいずれも却下する。

申請費用は、申請人らの負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、申請の理由

一、認否

(一) 被保全権利

申請人らは被申請人会社の従業員として雇傭され、それぞれ主文第二項掲記の平均賃金の支給を毎月二五日限り受けてきたものであるが、被申請人会社は申請人らを昭和四三年一月一八日解雇したと称して申請人らの右従業員たる地位を争い、申請人らの提供する労務の受領を拒否している。

(一)申請人らの平均賃金は否認し、その余の事実はいずれも認める。申請人福田の平均賃金は一ケ月金二万四、八三七円であり、同辻丸の平均賃金は一ケ月金二万四、六七〇円である。

(二) 仮処分の必要性

申請人らは労働者であつて被申請人からの賃金のみによつて生活を支えていたものであるが、右の如き事情から無収入となつたうえ被申請人会社からは従来の生活の本拠であつた従業員寮からも追い出され現在アパート住いをしているところ、申請人らは将来解雇無効確認の本訴を提起すべく準備中であるが、右本案判決の確定をまつていては著るしい生活上の損害を蒙るおそれがある。

(二) 申請人ら両名が労働者であること及び同人らが従業員寮から出たことは認めるが、その余の事実は否認する。

二、認否

二、抗弁

認める。

被申請人会社と申請人らの所属していた岐阜三星染整従業員組合(以下単に組合と略称する。)との間には、労働協約が締結されており、その第四条に「会社の従業員は原則として組合員でなければならない。組合員で組合の除名した者は会社は原則として解雇する。」旨のユニオン・シヨツプ協定が存するところ、被申請人会社は昭和四三年一月一八日組合から申請人両名を除名した旨の通告を受けたので、同日申請人らに対し右ユニオン・シヨツプ協定に基づき解雇する旨の意思表示をなした。

三、再抗弁

三、認否

(一) 除名の無効

本件解雇は、ユニオン・シヨツプ協定に基づいてなされたものであるが、組合のなした申請人らに対する除名処分は、以下に述べる理由により無効であるから、無効な除名に基づいてなされた解雇はその効力を生じないものである。

(一) 本来除名と解雇は全く別個に判断すべきものであり、前者の効力は後者に何らの影響を及ぼすものではない。なぜならば除名は組合内部の問題であり、使用者がこれに立入つた調査をすることは困難であること、しかも使用者は被除名者を解雇しなければ、組合から解雇義務の履行を求められ、その目的を達するためにはストライキに訴えられることも予想されること、更にシヨツプ制は組合の統制力強化にその目的が存するのであるから組合の自主性を尊重しなければならないことなどの理由から、除名の有効、無効は本来使用者の関知外のことであり、手続的に正当な除名通知があれば、使用者は解雇すれば足りるものと解しなければならないからである。仮に除名の無効によつて解雇の無効を招来することがあるとしても、それは使用者にとつて一見明白にして且つ重大な瑕疵が存する場合に限定されるべきである。そして本件除名には一見明白にして且つ重大な瑕疵は存在しなかつたのであるから、いずれにしろ本件解雇は有効である。

1 正当な除名理由の不存在

(1) 本事件の背景ならびにその経過は次のとおりである。

(a) 被申請人会社は、ここ数年来人員不足に悩まされていたが、一方では生産性を向上させるため工場の拡張、機械設備の増設等を行い、申請人らを含む従業員に対しては劣悪な労働環境の下で夏期における半強制的な連日の残業、休日出勤などの労働強化を押しつけていた。更に被申請人会社は全寮制をとつていたが、その設備は不備であるうえ、従業員の私生活にまで干渉していた。申請人らを含む従業員はこのような被申請人会社の態度に不満を抱いていたのであるが、組合の執行部は従業員たる組合員の不満や要求をとりあげるどころか、かえつて被申請人会社と癒着し企業意識を優先させてこれらの不満や要求を押えつけ、ために下部の組合員の要求を民主的にくみあげてゆくという意味での本来の組合活動は全く低調であつた。その結果組合員の執行部に対する不信感、不満が醸成されていつたのであるが、特に組合員総数の三分の二以上を占める女子組合員の執行部に対する不信感は、男子執行委員が大半を占める執行部が男女差別意識を有していたこともあって根強いものがあつた。

1 (1) (a) 被申請人会社がこの数年間工場の拡張、機械設備の増設等を行つてきたこと、或時期には残業時間が多かつたことは認めるが、その余の事実はいずれも否認する。

(b) 右の如き状況の下で組合は被申請人会社との昭和四二年度年末一時金の妥結交渉に入つたのであるが、昭和四二年一一月二九日組合の執行委員で構成される執行委員会は同年度末一時金として基本給の二ケ月分を被申請人会社に要求する旨決定した。ところが右要求に関する被申請人会社との交渉は前田労務課長と野口組合長の単独交渉が持たれたのみで団体交渉は一度もなされず、その結果、同年度末一時金は同年一二月一五日開催された再度の執行委員会において組合長自ら申請人辻丸の反対意見を押えたうえ、一、七五ケ月分で妥結することに決定し、続いて開かれた代議員会にはその旨報告されたのみであつた。しかも組合長を始めとする組合執行部は右交渉経過について組合員に何ら報告することもなく、又予め組合員の意見や希望を聞くこともなかつた。なお申請人福田は病気入院中にて右各会議に出席していなかつた。

(b) 昭和四二年一一月二九日開催の執行委員会において、同年度末一時金として基本給の二ケ月分を被申請人会社側に要求する旨決定したこと、同年一二月一五日執行委員会が開かれたこと、及び申請人福田は病気入院中で各会議に出席していなかつたことは認めるが、その余の事実はいずれも否認する。年末一時金一、七五ケ月分については右一二月一五日の執行委員会並びにその後開かれた執行委員と代議員の合同会議において了承されたものであり、又申請人辻丸は全く反対意見を申述べることなくこれに賛成していたものである。

(c) 同年一二月二〇日年末一時金が支給されたが、女子従業員(女子組合員・以下同じ)の間では、前年ですら一、七五ケ月プラスアルフアであつたこと、同年の夏期は例年に較べ残業が非常に多かつたこと、しかるにその支給された額が少なかつたことなどの理由から、期待が裏切られた憤りが充満し、「もうこれ以上我慢ができない。」「何とかしよう。」などと言いあつていた。そのうちにあちこちで話し合いがなされ、連絡がとられたうえ、自然発生的に同日夜従業員寮の部屋長会議を開催することに決つたのである。右経過において申請人辻丸が意識的に煽動し指導したという事実は全くなく、申請人福田も入院中の身であり、同日午後二時頃たまたま部屋長の送別会のため帰寮して始めてその騒動を知り驚いた次第であつた。

(c) 同年一二月二〇日年末一時金が支給されたことは認めるが、その余の事実はいずれも否認する。部屋長会議は予め計画されていたものである。即ち年末一時金が支給される以前である一二月二〇日午前中に、部屋長でもない申請人辻丸は「会社、組合に内密の部屋長会議を開くから集つてほしい」旨部屋長に連絡する一方、入院中の申請人福田に対し、「今日六時一五分から大変なことを起そうとしているから応援たのむね。」と架電していたのである。

(d) 同日午後六時一五分部屋長会議が開かれたが、申請人らも組合執行委員であつた関係から部屋長らから要請を受けて出席した。右部屋長会議において年末一時金追加要求のための集会を持つことが提案され討議の結果、部屋長だけでは決められないという理由から各部屋の意向を再度聞いたうえ、翌朝再び集合することにして散会した。翌朝七時一五分頃第二回目の部屋長会議が開催され、各部屋長からその部屋の意見が報告された。その結果直ちに職場集会が開かれることが決定された。部屋長より右決定を聞かされた女子従業員たちは自発的に食堂に集合し職場集会が開催されるに至つたのである。右のとおり女子従業員は自発的に集会に参加したものであつて申請人らにおいて何らかの特別な行為をしたことはない。

(d) 申請人ら主張の各部屋長会議が開かれ申請人らも出席したこと、申請人らが組合執行委員であつたこと、及び食堂において職場集会が開かれたことは認めるが、その余の事実はいずれも否認する。申請人らは、部屋長でもないのに部屋長会議に出席し、申請人らが中心になつて議事を進め、組合に対する不信感を誇示しながら、当初計画のストライキの方向に指導していつたのである。即ち最初の部屋長会議において、申請人福田は集つた部屋長に対し「こんな時にはストライキしてでも会社と戦わねばいかん。組合もあてにしたらいかん。」などといい、同日午後一〇時に開かれた部屋長会議においては、既に、スローガンや数え歌を書いた大きな紙が準備されており、申請人福田が「組合なんか頼りにならない。断固ストライキをして会社に抗議すべきよ。」「もう一度あしたここに集まりましよう。それまでに皆さんの部屋の人にも一人一人説得して集まるように言つておいてね。」などと言つていたのである。更に職場集会を開くにあたつては、申請人福田が中心となつて、既に職場に入つて就労していた従業員を職場より連れ出し、寮で就寝中の後番の従業員を起してまわり、食堂に集合させたのである。

(e) 右集会には通勤者二名を除く女子従業員全員と一部男子従業員が出席し、申請人福田が執行委員であつたため司会者に選出されたのち、年末一時金の追加要求の額をどれだけにするかについての討議や被申請人会社に対する種々の不満の表明がなされたが、会場は異常な興奮に包まれていた。その後午前九時三〇分頃、組合長他五名の男子執行委員が現われ、集会の解散を要求したが、女子従業員の強固な反対にあい、結局同人らも会社と交渉をする代表者を出すよう提案せざるを得なかつた。集会に参加した女子従業員はこの提案について討議した結果部屋長二一名及び女子執行委員三名を代表者とし、他の者は傍聴人として立会う旨決定したが、組合長らはこれに難色を示したので、更に紛糾し、最終的には女子従業員の譲歩により右代表者だけ被申請人会社との交渉に臨み、集会は解散することになつたのである。しかして申請人らは右集会において、集会者の一員であつたにすぎず、特に集会の解散を阻止するような言動は何一つしなかつたし、又組合執行部に対し誹謗したことはない。

(e) 本件集会において申請人福田が司会をしていたこと、組合長他が右集会場に赴き会社と交渉をする代表者を出すよう提案したこと及び最終的には部屋長及び申請人両名を代表として交渉に臨むこととし本件集会は解散するに至つたことは認めるが、その余の事実はいずれも否認する。本件集会は全く申請人らが独断専行して行なわれたものであり、一般女子従業員は付和雷同的にたゞ「一時金が増えればよい」とか「誘われたから」という単純な理由で参加していたに過ぎないものである。すなわち右集会は職場時間内にバリケードを築いて行なわれたものであるが、申請人福田が司会者となり議事を進め、申請人辻丸が同福田と共に一二項目の要求を記載したスローガンを読みあげ、コーラス、シユプレッヒコール等の指導をしていたのである。そして組合長以下組合三役らが「集会は労働協約に違反し、組合の決議に基づかないものである。組合決議に基づかず集会を開くことは現執行部をリコールすることではないか。一二項目の要求については組合に任せたらどうか。」などと申請人らを説得したが、申請人福田は終始これに応答し、「一万円の上積がなされない限り自分達はあくまで頑張る。」との一点ばりで、集会に出席していた女子従業員に対しては「ここを動いては駄目よ。動いたら負けよ。」などとあおりたて、申請人辻丸も同福田に同調し、右集会の解散を阻止した。更に申請人らは、組合長ら三役に対し、「組合役員は公然と共謀している。」とか「組合は会社の御用組合だ。」などといつて誹謗し、組合の統制秩序を乱す言動を公然と行つた。

(f) 同日昼頃から被申請人会社との交渉が行われたが、席上組合執行部は女子従業員の要求を被申請人会社に伝えるどころか、女子従業員を非難し、被申請人会社側も女子従業員の発言を押えつけ右交渉は会社側の一方的な説明会に終始した。

(f) 同日昼頃から被申請人会社との交渉が行われたことは認めるが、その余の事実はいずれも否認する。

右三者会議において、被申請人会社側として前田労務課長が、組合側として野口組合長がそれぞれ一時金決定に至るまでの経過を累々説明し出席者はこれを了としたが、申請人福田は、依然としてこれに不満を表明し、「組合幹部は、会社と共謀している」などと誹謗し、組合として放置できない発言を繰返し、申請人辻丸もこれに同調した。

(2) 申請人らは前述した職場集会(以下単に本件集会という。)を開き組合の統制を乱したとの理由で組合から除名されたが、本件の如くユニオン・シヨツプ協定の存する場合は、組合の除名は即解雇に結びつく危険性が著るしく高いのであるから、その除名の理由は、被除名者の行為が著るしく反組合的であつて且つ組合に甚大な損害を与えたこと、あるいは被除名者の行為が著るしく反組合的であり被除名者を追放しなければ組合の団結を維持できないことのいずれかの場合に限定されるべきである。ところで本件集会の組合に与えた影響については、本件集会によつて何ら組合活動上に支障をきたさなかつたのみならず、かえつて本件集会によつて女子組合員の底力をまざまざと示し、会社と組合との力関係にも影響を与え、更に本事件以降の一時金の妥結交渉にあたつては、組合員の要求の聴取や団交方式がとられるなど多少とはいえ組合の民主化が進んだものであつて、申請人らの行為は前記除名理由のいずれにも該当しないことは明白である。

(2) 申請人らが組合から除名されたことは認めるがその余の事実はいずれも否認する。申請人らの行為は、組合には何ら資するところなく、たゞ組合員の間に混乱と不信を生ぜしめたのみであつて、組合の統制を乱したことは論を待たない。

(3) 又被申請人は申請人らが労働協約違反の行為をしたことを除名理由の一つに掲げるが、労働協約における組合の義務は組合の利益のために存するものではなく、使用者の利益のために組合が力関係上やむなく認めさせられたものであるから、労働協約違反の行為は使用者からの懲戒の対象とはなり得ても、組合の懲戒権の直接の対象とはなり得ないというべきである。たゞ組合や組合員に対する使用者の懲戒処分や損害賠償請求の根拠となり得るという意味において、組合の内部統制と関係をもつことはあり得るであろうが、本件集会は時間的にも短時間のものであり、被申請人会社は組合あるいは組合員に対し何らの損害賠償請求も懲戒処分もしなかつたのであるから、申請人らの行為は右労働協約違反という面からとらえても除名理由たり得ない。

(3) いずれの事実も否認する。

被申請人会社と組合との間の労働協約第七条によれば、組合活動は原則として就業時間外に行うこととなつており、且つ同協約第一〇条には、会社の施設を利用するには事前に会社の許可を要する旨規定されているところ、申請人らはストライキを断行するなどと公言して、右労働協約に違反して、就業時間内に無届集会を行つたもので、組合の統制を乱したものである。

(4) 更に被申請人は除名理由の一つとして申請人らが本件集会等において組合執行部に対し「組合役員は会社と共謀している。御用組合だ。」などと誹謗したことを掲げるが、申請人らが右の如く組合執行部を誹謗した事実はない。仮に申請人らがそのようなことを言つたとしても、企業別組合においては御用組合化する危険性をもつているのであるから、組合員の組合幹部に対する批判は、それが事実をことさらにわい曲し、いたずらに攻撃を目的とするなど不当なものでない限り、組合の自主的民主的性格を担保するものとしてむしろ奨励されるべきものであるところ前述したとおり、本件組合もいわゆる企業別組合の欠陥を露呈しているのであるから、それが除名理由たり得ないことは明白である。

(4) いずれの事実も否認する。

申請人らは本件集会及びその後開かれた被申請人会社側との三者会議の組合員が多数いる席上において、組合執行部に対し、「組合役員は会社と共謀している。御用組合だ。」などと誹謗し、組合の統制秩序を乱す言動を公然と行つたものである。

(5) しかのみならず本件集会は、前記(1)で述べたとおり、全組合員の三分の二を占める女子組合員の会社及び組合執行部に対する不満を爆発させた結果、自然発生的に且つ女子組合員の自発的な総意に基づいて開催されたもので、何ら申請人らの策動によるものではなかつた。たゞ組合が年末一時金交渉を妥結した後に組合執行部に計られず、年末一時金追加要求のための集会が持たれたことは、一見統制違反と考えられ易いが、そもそも組合執行部の意思が尊重されなければならないのは、それが多数者の意思を代弁するものと組織上統制されているからであつて、本件組合のように多数の意思を組織の方針とせずむしろ執行部がそれを押えつけてしまうような非民主的性格を有している場合には、多数者の意思が執行部の意思にそわなくても、それに基づいてなされた行動は反組合的あるいは分派的行動ということができないものである。本件集会はまさにこの意味において反組合的あるいは分派的行動ではなかつた。むしろ、本件集会に参加した申請人らを含む女子組合員の行為は、組合を民主化し真に労働者のための要求を下から積みあげてゆくという、きわめて当然かつ正当な組合活動にほかならない。従つて申請人らが本件集合に参加したことは何ら除名理由に該らない。

(5) 本件集会は、組合が年末一時金交渉を妥結した後に年末一時金追加要求のために組合執行部に計られることなく持たれたものであることは認めるが、その余の事実はいずれも否認する。本件集会は、自然発生的に且つ女子組合員の自発的な総意に基づいて開催されたものではなく、組合の決議を経ることなく申請人らによつて周到に計画実施せられた「山猫スト」である。申請人らは執行委員の立場にありながら、組合の機関決定を無視し、本件集会において主導的役割をつとめたものであつて組合の統制を乱したことは明白である。

2 除名権の濫用

2 否認する。

仮に本件集会に参加することが何らかの統制違反に該当するとしても、申請人らのみを除名したことは次に述べるとおり非合理的な差別的取扱いまたは社会通念に著るしく反して苛酷であつて除名権を濫用したものであり、本件除名処分は無効である。

(1) 前述したとおり本件集会は自然発生的に且つ女子組合員の自発的な総意に基づいて開かれたものであつて申請人らが指導煽動したものではない。又申請人らは執行委員であつたが、執行委員であるとの理由のみで責任追及がなされてはならず、申請人辻丸に関しては、被申請人は執行委員として年末一時金妥結につき賛成していたことを除名理由の一つとしているが、同申請人は年末一時金妥結については反対の意思表示をしたのにも拘らず他の執行委員に押えつけられたのであり、更には年末一時金妥結を決定した委員会には申請人辻丸以外にも高原淑子山口洋子も出席しかつ本件集会に参加しているのに処罰の対象にすらなつていないのであるから、申請人辻丸についてもこの点は考慮されるべきではないはずである。それにも拘らず申請人らのみが除名されたのは、組合執行部が、組合員の下からの要求をとりあげその実現のために努力していた申請人らの日頃の地道な活動を嫌つたからであつて、本件除名処分は非合理的な差別取扱いによるものである。

(1) 申請人らが執行委員であつたことは認めるがその余の事実はいずれも否認する。

(2) 仮に申請人らを差別する合理的な理由があつたとしても、本件集会は女子組合員の総意に基づいてなされたものであることは前叙のとおりであり、しかも組合執行部は女子組合員の不信を買つていたのであるから、申請人らが組合執行委員であつたとしても本件集会開催前に組合執行部に女子の年末一時金の追加要求について相談を持ちかけるようにとの期待をすることは不可能であつた。又当時組合は争議中ないしは闘争中ではなかつたのであるから本件集会によつて組合に与える打撃の危険性は少なかつたものであり、事実組合には何ら実害が発生しなかつた。

右事由に加え本件集会の偶発性・組合執行部の非民主的性格その他前記正当な除名理由の不存在の項で述べた諸事情を考慮すれば、被申請人会社との間にユニオン・シヨツプ協定が存在し、除名即解雇となる状態の下でなされた本件除名処分は社会通念に反し著るしく苛酷なものである。

(2) 被申請人会社と組合との間にユニオン・シヨツプ協定が存在すること、及びユニオン・シヨツプ協定が存在する場合除名即解雇に結びつくことは認めるがその余の事実はいずれも否認する。

3 手続違背

3 否認する。

本件除名処分には次の如き重大な手続上の違背が存するので、本件除名処分はいづれの手続違背をとつても無効である。

(1) 本件除名は従業員組合規約第二八条に基づき、組合長によりなされたものであるが、右組合規約には第二八条に「本組合員にして組合規約に違反し、組合の統制を乱し、又は組合の名誉を汚すような不都合な行為ありたるときは、委員会に計り組合長これを処罰することあり。」との規定が存するのみで除名に関する手続が明記されていない。ところで除名処分の如き重大な処分は、明記された手続規定によらなければならないところ、本件の如くユニオン・シヨツプ協定が存在する場合においては、組合の除名は即解雇に結びつく危険性が著るしく高いのであるから、その除名処分の重大性にかんがみ、右規約第二八条の「処罰」の中には除名処分は含まないと解すべきであるし、例え除名処分を含むと解釈できたとしても組合長に除名権を認めた右条文は、労組法第五条第五号及び第九号などの趣旨に示される団体法理(公序)に反し無効である。従つて組合は除名に関する手続規定を欠くことになるが、手続規定を欠いている場合、除名をするには組合総会の決議によらなければならないものと解されるところ、本件除名処分をなすにあたり、組合総会が開催されたことはない。たゞ昭和四三年一月一〇日女子従業員のみの片番づつの集会が開かれたが、右集合は単なる説明会にすぎずしかも組合規約上の総会ではないこと明らかである。従つて本件除名処分は組合総会の決議を欠き、除名権のない組合長のなしたもので無効である。

(1) 本件除名は従業員組合規約第二八条に基づき、組合長によりなされたものであること、右組合規約第二八条には申請人ら主張の如き規定が存することは認めるが、その余の事実はいずれも否認する。右規約第二八条の「処罰」の中に除名を含まないと解する根拠はなく、又除名を含むと解しても同条が組合員の総意に基づいて定められたものである以上その有効なことは明らかである。しかも同条によれば組合長が処罰するに際しては委員会に計らなければならないのであるから何ら独断の危険もなく無効とさるべき理由はない。なお昭和四三年一月二〇日の集会は臨時総会であつて、右総会において本件除名は承認されたものである。

(2) 仮に組合規約第二八条により、組合長が除名処分をすることができるとしても、昭和四三年一月一七日組合長が除名処分をする以前に右規約第二八条にいう諮問をした事実はない。

(2) 否認する。

昭和四三年一月一七日、組合長は執行委員会及び引き続き開かれた合同委員会の除名を可とする決議を経たうえで本件除名処分をなしたものである。

(3) 本件除名処分にあたつて、申請人らは十分な弁明権行使の機会を与えられなかつた。即ち弁明権の行使とは単に反論する時間を与えられるのみでは足らず、その反論を準備したり、その反論を支持してくれる委員や組合員を得るためのある程度の働きかけをする時間的余裕が与えられなければならないのであるが、申請人らは執行委員会の開催中その開催について知らされたのであつて、不意打ちもはなはだしく又その後開かれた合同委員会では申請人らには反論の機会すら与えられなかつた。

(3) 否認する。

(4) 除名に関する組合員の意思表明は、その重大性にかんがみ無記名秘密投票によらなければならないのであるが、本件除名処分に関し開かれた執行委員会、合同委員会、片番づつの女子従業員の集会のいずれの会議においても、本件除名処分に関する議決をするに際し、無記名秘密投票によらなかつた。

(4) 申請人ら主張の各委員会および集会において議決するに際し、無記名秘密投票によらなかつたことは認める。

二、不当労働行為

二、否認する。

本件解雇はユニオン・シヨツプ制に藉口した不当労働行為であつて無効である。

(一) 申請人らの所属する組合は、男子執行委員全員が被申請人会社の役付であることなどに見られるように組合員意識より企業意識を優先させ、労資協調路線をとり、本来の組合活動は不活発であつた。申請人らは右の如き組合の中にあつて大多数の女子組合員を代表する執行委員の職責にあり、日頃より女子組合員の意思を組合に反映せしめるために、女子組合員の多くの者と話し合い組合員の不満を聞き、寮や作業場の設備改善等の要求実現のため地道に努力し又民青の同盟員として会社内においてサークル活動及び同盟員の拡大に力を注いでいた。

(一) 申請人らが執行委員であつたことは認めるが、組合の組合活動が不活発であつたことは否認する。その余の事実はいずれも不知。

(二) しかして被申請人会社は、申請人ら及びその家族に対し申請人らの民青活動・サークル活動についてその危険を述べつづけ、申請人らと交友のある組合員を呼びつけて交際をしないように勧告するなど他の従業員との接触を避けようとし、申請人らの言動を監督し、他の従業員と賃金その他の面で差別対遇をするなど、日頃より申請人らの前記活動を強く嫌悪していた。

(二) 否認する。

(三) 又被申請人会社は、本件集会の内容、除名に至る経過を、組合長の報告などにより十分知悉していたものであり、本件除名の理由が不当、薄弱であることは前記正当な除名理由の不存在の項で述べたとおりであるのに拘らず、組合長は本件除名に関し被申請人会社の上層部と相談したうえ、極刑ともいうべき本件除名処分をなしたのである。

(三) 否認する。

(四) 以上のとおり、被申請人会社のなした本件解雇は、労使一体制の下に被申請人会社が組合の一部幹部を動かし、申請人らを除名させたうえ、ユニオン・シヨツプ条項に基づき、組合除名を理由として解雇の意図を遂行したものであつて、解雇の真のねらいは、組合活動家であり、サークル活動家で且つ民青の同盟員である申請人らを企業より放逐する意図の下になされたものである。

(四) 否認する。

本件解雇は、組合が自主的になした除名処分を理由とするもので申請人らの組合活動、サークル活動とは何の関係もない。

三、解雇権の濫用(信条による差別的取扱い)

三、否認する。

申請人らに対する本件解雇は信条による差別的取扱いであり、解雇権を濫用したものであつて無効である。

(一) 被申請人会社は、労働協約を締結することにより組合が外部団体に加入することを禁じ、会社内においてサークルを結成しない旨の約束を組合との間に取り交し、民青や共産党を非難する講演を教養講座の一環として従業員に聞かせるなど組合員が会社内においてサークル活動をすることや外部団体に加入することを極度に嫌い、常に組合員に看視の目を光らせていた。

(一) 否認する。

(二) 申請人らが有していた思想及び活動、並びにこれに対する被申請人会社の反応は次のとおりである。

1 申請人福田について

(1) 申請人福田は、昭和四〇年四月民青に加入し、その中心的活動家であり、職場の人達とともに組合や政治のことなどについて話し合いながら同年九月には学習サークルを結成し、右サークルを活動の基礎としながら、身近な悩みなどを話し合い外部団体の主催する集会等にも周囲の人達を勧誘し、そのような活動を通じ、思想的に周囲の人達を変えようと努力し、民青の勢力拡大にも努めていた。

(二) 1 (1) 不知。

(2) これに対し被申請人会社は、申請人福田が民青に加入し右の如き活動をしていることを知り、同申請人が定時制高校に入学するに際しサークル活動をすることを禁じ、被申請人会社の労務課長を通じ同申請人をひんぱんに呼び出しては「民青は共産党だ。アカだ。嫁にも行けない。」などといつて同申請人の活動に干渉し、他の組合員と同申請人とを切り離そうとし、その他労務課員を通じてのスパイ行動、同申請人の私物検査、賃金面等における差別的取扱い、手紙の検閲等を行い、申請人福田のもつ思想を嫌悪し、民青活動を嫌つていた。

(2) 否認する。

被申請人会社では、以前男女関係の問題で従業員が事件をおこしたことがあり、又従業員の親元からも十分監督して欲しい旨要請されていたので、男女関係の問題についていろいろ注意を与えたことはあるが、申請人福田の思想等につき干渉したことはない。同申請人の私物検査は、当時同申請人宛の男性からの手紙が多かつたので、労務課長が男女交際について注意を与えたところ、同申請人が「そんなに疑うなら私の部屋を調べたらどうですか。」といつたので同申請人とともに同申請人の部屋まで行つたまでのことである。

2 申請人辻丸について、

(1) 申請人辻丸も昭和四一年五月頃民青に加入し、民青の中心的活動家であり、昭和四二年七月頃には岐阜ひまわり合唱団に入団した。同申請人は民青新聞の購読、配布、学習会への参加などの行動を通じて学んだことを職場の人に話し、合唱団で習得した歌を職場の人達に教えたりしていた。

2 (1) 不知。

(2) しかして被申請人会社は、申請人辻丸の右の如き活動を知り、同申請人の父親にその旨の手紙を出し、労務課長を通じひんぱんに同申請人を呼び出しては民青脱退を勧告し、外部団体の主催するうたごえ祭典やスキー祭典に行かせまいとしたり、その他賃金面における差別的取扱いなどを行い、同申請人の民青等の活動を嫌悪していた。

(2) 否認する。

(三) そして被申請人会社が、本件集会の内容および除名に至る経過を知つていたこと並びに除名理由が不当、薄弱であることについては、前記不当労働行為の項で述べたとおりである。

(三) 否認する。

(四) 以上のとおり、本件解雇はユニオン・シヨツプ条項に基づきなされたものであるが、その真意は被申請人会社が申請人両名の持つ思想を嫌悪してなした差別的取扱いによる解雇である。

(四) 否認する。

本件解雇は、組合の自主的になした除名処分を理由とするものであつて、申請人両名の思想とは何らの関係もない。

理由

一、申請人らが被申請人会社の従業員として雇傭されていたこと、被申請人会社は昭和四三年一月一八日解雇したと称して申請人らの右従業員たる地位を争つていること及び抗弁事実は当事者間に争いがない。

二、申請人らは、組合の申請人らに対してなした除名処分は無効であるから、無効な除名に基づいてなされた解雇は無効である旨主張するので判断する。

(一)  申請人らが組合執行委員であつたこと、昭和四二年一一月二九日開催の同組合執行委員会において同年度末一時金として基本給の二ケ月分を被申請人会社側に要求する旨決定したこと、同年一二月一五日執行委員会が開かれたこと、申請人福田は病気入院中で右各会議に出席していなかつたこと、同年一二月二〇日年末一時金が支給されたこと、同日午後六時一五分及び翌朝七時一五分頃から各部屋長会議が開かれ、申請人らが右各会議に出席したこと、同月二一日食堂において職場集会が開かれたこと、右集会において申請人福田が司会をしていたこと、組合長らが右集会場に赴き代表者を出すよう提案したこと、そして最終的には部屋長及び申請人両名を代表として選出し、右集会を解散させるに至つたこと、及び同日昼頃から被申請人会社と代表者らとの話し合いが行われたことはいずれも当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実に、証人土手口イサヨの証言により真正に成立したものと認められる疎甲第二号証、申請人辻丸喜美子本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる疎甲第四号証、申請人福田悦子本人尋問の結果によりそれぞれ真正に成立したものと認められる疎甲第五号証、第一〇号証、第一一号証、証人野口高の証言により真正に成立したものと認められる疎乙第七号証、証人井上隆子、同荒井良幸、同山下ケイ子、同武富マツエ、同野口高、同前田勝一(第一回)の各証言及び申請人辻丸喜美子(第一回)、同福田悦子各本人尋問の結果を総合すれば、本件集会に至る経過及びその内容並びに解雇に至る経過につき、次の事実を一応認めることができる。

1  申請人らの所属する岐阜三星染整従業員組合は、昭和四二年暮被申請人会社と同年度末一時金の妥結交渉に入つたが、当初開かれた執行委員会において年末一時金として二ケ月分要求することに決定した。ところで被申請人会社との直接交渉は同年一二月一四日から組合長と被申請人会社の労務課長との間でなされ、組合長は翌一五日被申請人会社から一・七五ケ月の回答を得るや直ちに三役会議を開いたうえ一応右回答で了解することとし、同日執行委員会でその旨決定したのち、代議員会に報告され、同月一六日組合、被申請人会社間で同年度年末一時金は四〇パーセントを査定部分として平均一・七五ケ月分とすることに妥結し、その旨調印がなされた。そして年末一時金は右妥結に従い同月二〇日支給されることになつた。

2  しかし、一般組合員は右交渉の経過を知らされることがなく、年末一時金要求額につき予め意見を求められたこともなかつた。同月二〇日午前右年末一時金の支給に先立ち、妥結額を伝え聞いた見本室及び試験室の女子組合員の間から妥結額が昨年より少なかつたこと、同年度は残業も多かつたことなどの理由から不満の声が持ちあがり、同女らは執行委員たる申請人辻丸を交えて相談をし、女子従業員寮の部屋長の意見を徴するなどした結果、ともかく支給されてみないことにはわからないとの意見が大勢を占めたので、支給後の休憩時間である同日午後六時からあらためて部屋長会議を開いて話し合うことになつた。やがて同日昼頃から年末一時金が支給されたが、一時金を受領した女子組合員の間では、支給額が期待に反して低かつたため、所々において不満の表明がなされていた。一方申請人福田は同年一〇月頃から入院中の身であつたため、同日夜開かれることになつていた同申請人の部屋長の送別会に出席するため同日午後二時頃帰寮して始めて右事態を知つたものであるが、同僚の藤井優子から同申請人が執行委員であつた関係から、午後六時からの部屋長会議に出席してほしい旨要請され、それを了承した。

3  同日午後六時一五分の休憩時間各部屋長の他申請人両名、井上隆子が出席し、被申請人会社及び組合に内密の部屋長会議が開催された。右会議において申請人福田が司会の役割を果し、年末一時金が期待に反し少額であつたため参会者が興奮していたことも手伝つて、一、二のやゝ消極的な意見を除き、年末一時金の追加要求のための集会を開催することに大勢の赴くところとなつたが、更に慎重を期し、各部屋の女子組合員の意見を聞いたうえで各部屋の意見を持ち寄り、翌朝再度の部屋長会議を開催し最終的に決定することにして散会した。翌朝午前七時一五分の休憩時間内に第二回目の部屋長会議が開かれ、各部屋長からその部屋の意見が報告、集約された結果、直ちに同日午前八時から従業員寮食堂において年末一時金追加要求に加え従前から要求していた寮生活の改善等一二項目にわたる要求の職場集会を開くことに決定した。右集会を開催するについては、右いずれかの会議の席上、組合を通してやるべきだとの意見が出されたが、組合の執行部に握りつぶされてしまうとの危惧の念から、女子組合員独自で集会を開催することになつた。

4  右決定は直ちに各部屋の女子組合員に伝達され、組合員総数の三分の二を超える約一七〇名の女子組合員のほとんど全員が同日午前八時頃から食堂に集合し、食堂入口を机や椅子などで塞いだうえ、集会を開催した。集会は冒頭藤井優子が発言し、申請人ら及び藤井優子ら部屋長が前に立ち、申請人福田の司会で会を進め、年末一時金の追加要求額についての討議、寮生活に対する不満の表明や、替え歌等の合唱が行われるなど会場は異常な興奮に包まれていた。そして右集会開催直後、被申請人会社の吉野主任が会場に現れ集会を解散させようとするや会場は騒然となり女子組合員らから「帰れ帰れ」と連呼されやむなく会場を離れた。間もなくして女子組合員の右集会について聞知した野口組合長以下男子執行委員が会場に現れ「無届集会で違反である。組合執行部をリコールするつもりか。責任者は誰か。」などといつて集会の解散を要求したが、申請人福田が「労働者には集会やストライキをする権利がある。私達は組合執行部をリコールするつもりはない。組合は会社とグルになつているのではないか。」などと反論し、参会者の間からも「皆が責任者だ。」「もつと組合は私達の要求を聞いてほしい。」などの発言がなされ、組合長と申請人福田との間の押問答がなされた末、組合長ら男子執行委員は「組合に任せてほしい。代表者を出してくれ。」と要求して退場した。そこで右男子執行委員の提案について検討した結果「集会をこのまゝ続ける。」「代表を出す。」「代表を出して皆が交渉を傍聴する。」との三つの意見が出されたが、最後の意見が最多数を占めたので、その旨男子執行委員に申入れたところ、男子執行委員は全員で交渉を傍聴することに難色を示したため、再びもめた挙句、結局部屋長全員と申請人らを含む女子執行委員三名を代表として送り会社側と交渉することにして集会は午前一一時頃散会した。しかして右集会は一部女子組合員の勤務時間内にくい込むものであつた。

5  そこで同日正午頃から被申請人会社と男子執行委員及び前記代表者との間で話し合いが持たれたが、結局年末一時金妥結額について会社側の数字を挙げての説明に終始し、申請人ら集会の代表者はその内容をわかりかねたので、被申請人会社側は再度同日午後六時の休憩時に全従業員を集めて説明をするに至り、本件集会は右説明会をもつてその結末を迎えた。

6  そして組合三役は無届集会は労働協約上の義務違反であり、申請人らが執行委員でありながら本件集会を開催したことは組合の統制を乱したものであるとして、申請人らを何らかの処分に付すべきであるとの結論に達し、翌昭和四三年一月一七日執行委員会及び代議員との合同委員会を開いたうえ、組合長自ら申請人らを除名処分に付し、右通知を受けた被申請人会社はユニオン・シヨツプ協定に基づき、同月一八日申請人らを解雇した。

以上の事実が一応認められ、右認定の事実に反する疎乙第一六号証の記載、証人武富マツエの証言の一部及び申請人福田悦子本人尋問の結果の一部はたやすく措信しがたく、他に右認定を左右するに足る疎明はない。

(三)  ところで労働組合はその自主的判断に基づき組合の統制権の発動として組合員の除名をなす固有の権限を有するものと解すべきであり、使用者とその組合との間でユニオン・シヨツプ協定が結ばれている場合には、使用者は組合の自主性を尊重し、組合の自主的になした除名処分について介入してはならず、組合から除名通知を受けた場合には原則として解雇すべき義務を負うものであるが、一方労働組合の有する自主性も無制限に保護されるものでないことは論をまたないところである。すなわち組合のなす除名処分は正当な除名理由および適正な除名手続に従つてなされなければならないのであつて、正当な除名理由がなくあるいは適正な手続を経ずしてなされた除名処分は重大な瑕疵があるものとして司法審査の対象となるのみならず、それ以前においても組合から除名の通知を受けた使用者は、除名理由および除名手続が明らかでないときは、除名理由および除名手続につき一応組合に質すことを得べく(それ以上の調査、詮索をなすべきでないことは勿論である。)その結果組合のなした除名処分に重大な瑕疵を発見しあるいはこれを容易に発見し得べかりし場合には、使用者はユニオン・シヨツプ協定にもとずく解雇義務を負わないものとして組合からの解雇の要請を拒絶できるものと解すべきである。このことは使用者が組合から除名通知を受けた当時、除名理由および除名手続について組合に質すまでもなく使用者側において組合のなした除名処分に重大な瑕疵を発見しあるいはこれを容易に発見し得べかりし場合においても同様と解すべきである。そして右の場合において使用者が被除名者を解雇した場合においては、その解雇は解雇義務なきことを知りながらなした解雇というべく、被除名者に対する関係においては右解雇は解雇権の濫用として無効との評価を免れないものというべきである。

(四)  1 そこで先ず本件除名処分に正当な除名理由が存したかについて判断するに、使用者との間にユニオン・シヨツプ協定が結ばれている場合には、労働組合のなす除名処分は、その結果の有する重大性に鑑み、被除名者の行為が著るしく反組合的であり、且つその行為によつてもたらされる組合の損害が著るしく大きく被除名者を除名しなければ組合の団結を維持できないような場合にのみ許されるべきものと解すべきところ、前記認定の事実によれば、組合は年末一時金について被申請人会社と交渉した結果妥結するに至つたのであるから、右妥結額に不満があつたとはいえ女子組合員が組合執行部を通さずに年末一時金追加要求のため集会を開き、組合の執行委員たる申請人らが右集会に参加し主導的役割を果したことは一応責められるべき行為であつたということができる。しかしながら他方前記認定の事実によれば本件集会は組合員総数の三分の二を超える女子組合員の年末一時金の低額さに対する被申請人会社への不満の表明であると同時に組合執行部の前叙の如き年末一時金交渉にあたつての非民主的な妥結方法に対する批判の表明という性格を有していたこと、従つて右組合執行部の下部組合員から遊離した年末一時金の非民主的な妥結方法が本件集会の持たれるに至つた大きな原因であつたこと、そして本件集会の実質は年末一時金の追加要求がその主眼であつたにせよ寮生活の改善要求をも同時にかかげているところから見られるようにいまだ女子組合員が独走し年末一時金の追加を要求して直接被申請人会社との交渉に入るなどの段階に至らない、組合や被申請人会社に対する種々の不満あるいは批判の表明のための集会に過ぎなかつたとも見られること、又申請人らが主導的役割を果したのは一二月二〇日午後六時一五分から開催された部屋長会議の時以降のことであり、しかも主導的役割を果したのは申請人らのみではなかつたことを認めることができ、更に本件集会の発生の経過ならびに女子組合員のほとんど全員が集会に参加したことからすれば本件集会は多分に偶発的で自然発生的な性格を有していたことがうかがわれ、又証人野口高、同前田勝一の各証言によれば組合あるいは組合執行部は、被申請人会社から本件集会が開かれたことのために何らかの抗議もしくは処分等の処置を受けたことはなく、本件集会後組合の団結にひびが入つたことはなかつたことが一応認められ、これらの事実に照せば申請人らの行為はとうてい前叙の除名理由に該当するものということはできず従つて本件除名処分は正当な除名理由なくしてなされたもので無効というべきである。

被申請人は本件集会の開催は組合と被申請人会社との間の労働協約に違反し、且つ就業時間内に行われたものであつて組合の統制を乱した旨主張するが、本件集会の開催が、労働協約に違反した集会であり、前叙のとおり一部女子組合員の勤務時間内にくい込むものであつたとしても、そのこと自体は被申請人会社の、集会に参加した従業員に対する懲戒事由もしくは組合や組合幹部に対する協約義務違反として責任追求の対象とはなり得ても、組合の統制権の対象とは真接なり得ないものであり、組合あるいは組合幹部に対する使用者側からの責任追求がなされることにより間接的に組合の統制とかかわりあいを生ずるものであるが、前叙のとおり被申請人会社から組合ないしその幹部に対し責任追求がなされたことはなかつたのであるから、これをもつて統制違反の事由とはなし得ないものである。

更に被申請人は、申請人らが組合長ら男子執行委員を誹謗し組合の統制を乱したと主張するが、およそ組合員の組合に対する批判はそれが事実をことさらにわい曲しいたずらに攻撃を目的とするなど、不法、不当なものでない限り、組合の民主化を担保するものとして最大限に尊重されるべきものというべきところ、申請人福田が、本件集会の場において組合長らに対し「組合は会社とグルになつている。」旨の発言をしたことは前叙のとおりであるが、証人土手口イサヨの証言により真正に成立したものと認められる疎甲第二号証によれば当時の組合長以下男子執行委員全員が被申請人会社の役付の地位にあつたことが一応認められ、右事実に加え前記認定の年末一時金の交渉の経過からすれば、同申請人が男子執行委員に対し右発言内容の如き感じを抱いていたとしても無理からぬ事情があつたものというべく、従つて同申請人が右発言をなしたことをとらえて組合長らを誹謗し組合の統制を乱した反組合的なものということはできない。

2 右のとおり本件除名処分は正当な除名理由なくしてなされた無効のものであるが、一方証人前田勝一の証言によれば被申請人会社の労務課長は、本件集会の模様につき、吉野主任及び組合長から逐一報告を受けていたことが一応認められ、又同人は本件集会の発端ともいうべき年末一時金の交渉の被申請人会社側の当事者であつたのであり、これらの事実からすれば同人は本件集会の原因、本件集会のもつ前叙の如き内容および性格、並びに本件集会の組合に与えた影響を認識していたか少くともこれを容易に認識し得たものというべきである。そして被申請人会社側において、申請人らが本件集会に参加したことを理由に除名されたものであることを知悉していたことは証人前田勝一、同野口高の各証言により明らかに認められるところであるから、被申請人会社は本件除名処分に正当な理由がないことを見出し、あるいはこれを容易に見出し得たものというべきである。従つて被申請人会社は解雇義務がないのに申請人らを解雇したものであつて、本件解雇は解雇権の濫用として無効のものというべきである。

三、してみれば申請人らと被申請人会社との雇傭関係は依然として存続しているものといわなければならない。そして被申請人会社が本件解雇を理由として昭和四三年一月一八日以降申請人らの就労を拒否していることは当事者間に争いがないので、申請人らは被申請人会社に対し右同日以降も賃金支払請求権を有するものというべきである。ところで成立に争いのない疎甲第八、九号証によれば、申請人らの賃金額は非固定的であることが一応認められ、その支払われるべき賃金額は解雇直前三ケ月間の平均賃金額によるのを相当とするところ、右疎甲第八、九号証によれば、申請人福田の解雇前三ケ月(昭和四二年八月ないし一〇月)の平均賃金は金三万〇、三一三円であり、申請人辻丸の解雇前三ケ月(昭和四二年一〇月ないし一二月)の平均賃金は金二万四、九四一円であることが一応認められ、毎月二五日限り賃金の支給を受けていたことは当事者間に争いがないので、申請人福田は一ケ月金三万〇、三一三円の、申請人辻丸は一ケ月金二万四、九四一円の被申請人会社に対する賃金支払請求権を、昭和四三年一月一八日以降毎月二五日限り、有するものである。

四、そこで仮処分の必要性について判断するに、申請人らが労働者であることは当事者間に争いがなく、申請人福田悦子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる疎甲第一号証によれば申請人らは従業員寮を出たのちアパート暮しをしており見るべき収入のないことを一応認めることができるので、本案判決の確定をまつていては著るしい生活上の損害を蒙るものというべきであるから仮の地位の保全並びにそれぞれ前記賃金額の仮の支払いを求める必要性があるものというべきである。

五、よつて保証を立てさせないで主文のような仮処分を命ずることとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を通用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 丸山武夫 川端浩 園田秀樹)

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